詳細説明

環境意識の向上や、ライフスタイルの多様化によるジェンダーを越えた美意識の高まりなど、人々の価値観は大きく変化していた。その中でシェーバー市場は、機能追加や、高機能を加飾で強調した「足し算」による従来通りの競争が行われ、商品をスペック以外では判断しにくい状況にあった。

この市場環境に対する課題意識を持ち、将来の価値観やくらしになじむ豊かな体験価値を提供し、環境課題に応える商品を生み出す目標のもと、本質機能以外には徹底的な「引き算」の発想で開発が進められた。上位機種の本格的な剃り性能を維持したまま本体グリップを取り除き、手のひらに収まるコンパクトなフォルムに凝縮する構想を発案、次代のシェーバーの新典型を創出した。

具体的には、まず独自の小型リニアモーターと基板や電池をコンパクトにまとめるアイデアで手のひらに収まるサイズを追求した。さらに、ヘッド部を自在な可動で顔の凹凸に密着させるための、従来の複雑なサスペンション機構を手首や指の動きで置き換えられる、という仮説が立てられた。

その仮説に対しプロトタイプにて使用感や効果などの体感検証が重ねられ、指先で自在に角度を変えやすい、底部に丸みのある外観形状にて具現化。この形状により、性別を問わず注目されるスキンケア意識に沿うような、髭や肌状態を確認しながら直接指先で肌と対話するという新しいシェービング体験が実現された。

また、同等性能の従来機種から部品数と体積を約30％削減、加飾部品などの環境負荷要素も低減され、より環境への配慮がなされた。USB充電による利便性も加わり携帯性も向上、陶器のような高質感と適度な重量感を持つ自然由来素材の採用で道具としての感性価値も高められた。

同系色のシームレスな磁石式キャップにより一体感を持って刃部を覆うことで、不使用時のインテリアや、同居する家族など使用者以外にも配慮した。愛着を持って永く使われる、誰もが心地よい存在感となる製品である。

2023年度グッドデザイン金賞受賞。